物語文の解き方

夏井(中学受験専門 夏井算数塾 代表):
今回は、非常にシンプルなテーマです。
「物語文はどうやって解いたらいいの?」
ということについてお話を伺いたいと思っています。

物語文は、気持ちの変化など説明文にはない要素があり、難しく感じるご家庭も多いと思います。
どう捉えれば良いのでしょうか?


長島:
恐らくご家庭の意図としては、まさに気持ちの読み取りについて知りたい、ということだと思います。
ですが、その前段階として、物語文にも説明文的な問題が存在します。

たとえば、

「棒線部はどういうことですか?」

という設問。
これは説明文で頻出するタイプですが、

“どういうことか?” → 言い換える(=説明する)

ということです。
私は「イコールをつくる」と言っていますが、これは説明文でも物語文でも同じです。

つまり、

物語文にも、まず説明文的なアプローチがベースとしてある

ということなんです。


ただし、そのうえで気持ちの読み取りについてお話しします。

気持ちを読み取るときは、必ず

棒線の理由を追いかけてください。

たとえば、サピックスではよく

背景 と 出来事 を揃える

という指導がされます。


例)
背景:志望校に合格した
出来事:泣いた

このときの気持ちは?

嬉しいに決まっていますよね。

背景と出来事が揃っていれば、気持ちは自然に導けるわけです。


問題は、

背景と出来事をどうやって自力で揃えるか?

ここで重要になるのが 言葉の定義 です。


出来事の見つけ方

  • 棒線そのものが出来事

  • または、棒線の理由が出来事

背景の見つけ方

  • 出来事の理由


先ほどの例でいうと、

「泣いた」が棒線
→ その理由を探す
→ 「志望校に合格したから」

つまり、

用語 内容
出来事 泣いた(棒線)
背景 志望校に合格した(出来事の理由)

結論としては、

棒線の理由を追えば、背景と出来事が揃い、気持ちがわかる。

物語文の気持ち読み取りは 感性ではなく、論理 です。

とにかく「棒線の理由」を追う。
それが物語文の気持ちを読み取るときの心構えです。

かっちりとした解き方に基づかない問題集は有効?

夏井:
色んな先生の国語の授業を見て感じることがあるのですが、
なんとな〜く解いている先生・生徒・問題集って多くありませんか?

長島:
ありますね。「読んでいればこの気持ちでしょう」という感じですかね。

夏井:
特に物語文で多いと思うのですが、
今のような“かっちりとした解き方”ではなく、感覚で解かせる指導や、
そういった方針で作られている問題集もまだ存在する気がします。
それは、どれくらい有効なんでしょうか?


長島:
結論から言うと、有効性は薄いと思います。

その理由ですが——

大人から見れば、中学受験の国語の問題って、
そんなに勉強しなくても読めるように感じることが多いと思います。
国語の先生なら、もともと国語が得意な方が多いでしょうし。

ですが、私は大学受験の現代文にも携わったことで考え方が変わりました。

早稲田大学の現代文は本当に難しい。

文章は抽象的で、内容もすぐには理解できない。
それでも合理的に答えを導かなければならないんです。

大学受験初年度の指導では、私自身かなり苦しみました。
あのときは全力を尽くしましたが、

「もっと良いやり方ができたのではないか」

と、今でも反省があります。

その経験の中で、どうにか理解できない文章でも処理できる方法論を編み出し、
それを中学受験に落とし込んだのが、今の指導のベースです。

その方法なら、生徒も再現性を持って答えを導くことができます。


だからこそ、

大人の読解力をそのまま子供に当てはめるのは違う。

大人は経験値があるから“なんとなく”読めてしまう。
でも受験生は違います。理解が追いつかない部分もあります。

だから、受験生でも迷わず使える
処理手順と思考の道筋(=再現性のあるアプローチ)が必要なんです。

 

中学入試 物語文のポイント

物語文では登場人物の心情を問う問題がよく出題されます。では、どうすれば心情をつかめるようになるのでしょうか。ポイントは背景と出来事を整理することです。受験生は文中で起こった出来事にはよく注目してくれるのですが、背景を無視しがちです。ちなみに、背景とは、性格や家庭環境、相手に対する思いなどの、ありとあらゆる情報のことです。

たとえば、文中で主人公が泣いていたといます。このとき主人公はどのような気持ちでしょうか。生徒に聞くと、「悲しい!」という答えがよく返ってきます。しかし、正解は「わからない」です。というのも、「志望校に合格できた」という状況だったら、ここの涙はうれし涙だということになります。この場合、背景…志望校に合格できた、出来事…泣いた→心情は「うれしい」となります。また、ライバルよりもテストの点数が低かったという状況だったらどうでしょうか。こちらのケースでは、背景…ライバルに負けた、出来事…泣いた→心情は「悔しい」となります。もちろん、背景によっては悲しいという心情になることもあります。

心情を問う問題における背景整理の重要性

このように、同じ出来事であっても背景によっていだく心情は異なるのです。ですから、常に背景を意識することが物語文攻略につながっていきます。また、物語文においては、理由を問う問題も心情をおさえていないと対処できない場合があります。先に出来事として取り上げた「泣いた」ですが、その理由は何でしょうか。悲しかったから、あるいはうれしかったから、などといった、何かしらの心情によって涙を流したのです。このように、心情自体が理由になっていることもままあります。ですから物語文では心情をつかむことが大きなポイントになるのです。

とはいえ、物語文のすべてが心情をつかむ問題というわけではありません。説明文の項で取り上げた、三段論法やブロック分けを用いて対処する問題も出題されます。したがって、説明文における答えを導く手法を確立できていないがゆえに物語文の得点が伸びないというケースもある。それも忘れてはなりません。

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