「記述力を向上させる」読解ラボ流のポイント

中学入試 記述のポイント

入試国語の記述で求められる力とは何でしょうか。文章力?感性?――実は、それらが求められる問題はほとんどありません。記述問題で不可欠なのは、答えを文中から見つけ出す力です。なぜなら、受験の記述は文中から答えになる部分を取り出してまとめるタイプの問題が圧倒的に多いからです。

ある学校の入試問題で、傍線部③「生物学的にはそれは間違いである」を50~60字で説明せよ、という問題が出題されました。説明文の項で述べたように、説明を求められたら「イコールの内容」を探します。傍線部③の直前を読むと、「それ」が指すのは「人間は一人で生まれて一人で死ぬという考え」であると分かります。すると、傍線部③=生物学的には人間は一人で生まれて一人で死ぬという考えは間違いである(X)となります。しかし、Xだけでは50字に満たず不十分です。記述で字数が足りないときは、自分の書いた内容の理由、またはイコールとなる別の内容を加えて字数を調整します。今回はXの理由が本文に書かれていました。傍線部③の8行前を見ると、人間の体には一億以上の生物が住んでいる(Y)とあります。つまり、人間は無数の生き物と共に生きているのです。だから、Xの通り、「人間は一人で生きている」という考えは生物学的に誤りなのです。言い換えれば、Xの理由がYということになります。したがって、XにYを付け加えれば答えが完成します。私が採点者で10点満点なら、Xが書けて5点、Yが書けて5点、と採点するでしょう。

 

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このように、記述の問題は本文中から答えになる個所を見つけ、そしてそれらをつなぎ合わせることで答えを作るのです。したがって、文章力や感性ではなく答えを文中から見つける力が求められると言えるのです。

ですが、物語文における心情を記述させる問題はどうでしょうか。多くの物語文では登場人物の心情を明示しません。ですから、そういった類の問題では感性や文章力が問われるように思われます。しかし、やはりそれも誤解です。心情の記述でも答えを文中から見つける作業が根幹を成します。

物語文の項でご説明いたしましたが、心情を考える時には背景と出来事を整理します。これもとある入試問題を素材とした話なのですが、背景として、少年Aは悪ガキとして扱われており、大人たちから常に疑いのまなざしを向けられていました。ところが、出来事として、主人公の母親はそういった先入観を持たないで少年Aに接してくれました。そして、そのとき少年Aが泣きました。この泣いたところに傍線が引かれ、このときの少年Aの心情を問う問題が出題されました。背景と出来事を踏まえれば、少年Aの気持ちは手に取るように分かります。今まではずっと大人たちから疑われて過ごしていたのに(背景)主人公の母親は疑わないでいてくれた(出来事)のです。これらから、少年Aはうれしくて泣いたのだと分かります。つまり、傍線部における心情は「うれしい」です。私が採点者で、かつ10点満点であれば、背景を書けて3点、出来事を書けて3点、うれしいという心情を書けて4点とします。

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要するに、心情を記述する問題であれば、その心情を導くための背景と出来事を記述しなければならないということです。そして、背景と出来事は文中に必ず書かれているのです。したがって、物語文における心情を記述する問題でも、やはり答えを文中から見つけるという作業が不可欠になります。また、この背景と出来事をおさえてしまえば、登場人物の心情を推し量ることは容易です。明示されないとは言っても、心情はきちんと文中に根拠があるということです。

ここまでご説明した通り、記述の問題は答えを文中から見つけて対応していきます。そして、答えとなる個所を見つける手法は選択肢や抜き出しなどの客観問題とほとんど変わりません。確かに字数の増やし方は記述独特と言えます。しかし、それでも説明を求められたらイコールの内容を考えるのです。心情を問われたら背景と出来事を整理するのです。これらの手法は客観問題でも必要不可欠のものです。ですから、記述ができないという生徒さんは、そもそも客観問題をきちんと解けているのかをまず疑うべきでしょう。逆に言えば、記述問題をきちんと解けるようになれば、客観問題の正答率も安定する可能性が大いにあるということにもなります。

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